小さな夢の城は皆から愛された

楽しいからくりで盛大に時を告げる


鐘と共に扉(ドア)は開き

王様が顔を出す

姫と王子はキスを交わして

騎士たちは踊って


毎日繰り返し続け

狂うことも知らずに

まるで“玩具”(おもちゃ)みたいに

オルゴールが鳴る



純粋な子供たちは時の概念を求めて

針が重なる瞬間を見逃しはしない


音と共に鳩は歌い

鹿と兎が駈ける

牧師は羊と戯れ

安らぎのひととき


飽くまで動かし続け

狂うことも赦されず

いつか“玩具”みたいに

オルゴールが泣く



幼い頃ときめいた大切なものは何だった

誰かに忘れられても優雅に時を告げる


遠くなったあの日々を

王様は思い出す

音に合わせ手を叩き

笑ってくれた過去を


百年繰り返し続け

狂うこともできずに

今もこの場所で待っている

まるで“玩具”みたいに

必要とする人を



いつしかここは廃れ

主人亡き家屋となり

訪れる者と

時計(それ)を止める者はいない



【からくり時計】

昔栄えた貴族たちに愛されたからくり時計。
今は廃れた屋敷の中にただひとつ取り残されている。誰かの訪れを待ちながら。